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名古屋地方裁判所 昭和57年(む)544号 決定

事件

主文

名古屋地方検察庁検察官野間敬一が昭和五七年八月三日申立人に対してなした被疑者加藤豊和との接見を拒否する処分を取消す。

理由

一本件申立の趣旨は、主文と同旨(但し八月二日は八月三日の誤記と認める。)の裁判を求める、というのであり、その理由は準抗告申立書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

二本件記録及び事実調べの結果によると、申立人は、昭和五七年八月三日午前一〇時ころ、被疑者らの事件を捜査している千種警察署に電話で被疑者との接見を申入れたところ、係官より担当検察官に連絡して欲しいと言われたため、すぐ担当の名古屋地方検察庁検察官野間敬一に電話で午前中に被疑者と接見したいと申入れたところ、同検察官より「本件は接見禁止決定が出ているので、指定書を取りに来て下さい。」と言われて、「指定書など取りに行く必要ない。弁護人が接見するのにどうして指定書がいるのか。」と申立人が反問したところ、検察官は「当庁の取扱いとしては指定書交付によつて接見してもらつている。」という説明をしたのみで、結局具体的な接見の日時を指定しなかつたこと、が認められる。

三右に認定した事実によれば、本件について、野間検察官が、申立人に対し、名古屋地方検察庁で同検察官より接見指定書を受取り、これを持参しない限り、申立人と被疑者との接見を拒否する旨の処分を行つたと認めるのが相当である。そこで検察官の右の処分の当否について検討する。

刑訴法三九条三項によると、検察官は、捜査のため必要があるときは、接見に関し、その日時、場所及び時間を指定することができることになつているが、指定の方式については何ら規定していない。従つて指定の方式は、検察官の合理的な裁量に委されていると解するのが相当である。しかし検察官による接見の日時、場所等の指定自体、弁護人と身体の拘束を受けている被疑者との接見交通の自由を原則としながら、なお捜査の必要性にも配慮し、一定の限度におして例外的に認めた処置に過ぎないのであるから、その方式による接見交通の自由の制限も必要止むを得ない限度に止められるべきであり、かかる限度を越えた方式によりなされた接見の指定は、合理的な裁量の範囲を越えた処分として違法といわなければならない。

本件において、検察官が、接見の指定について、弁護人である申立人に対し、名古屋地方検察庁の許に出頭し、指定書の交付を受け、それを持参しない限り愛知県警察本部留置場に勾留されている被疑者と接見できないとしているのであるから、そのとき弁護人が同検察庁にいたなどの特殊の事情があれば格別、それ以外は弁護人にそれなりの負担を強いることになるのである。そして接見の過程で過誤や紛争の起きる虞が高いとか、接見の経過に関し証拠を残しておく必要がある等、指定書の持参が円滑な接見の遂行に必要とみられる特段の事情の認められない本件において、弁護人にそのような負担を強いることは、必要な限度を越えた接見交通の制限として違法といわなければならない。もちろん接見の指定のように、日常的、組織的に行われている事務の処理は、手続を明確、画一化し、手続の不明確、不統一から生じる無用の紛争を招かないようにする必要のあることは間違いなく、そのためには書面による方式の優れていることも否定できない。しかしそのような事務処理上の要請も、前叙のような特段の事情の存在しない限り、捜査官側の適切な処置によつて十分まかない得られるのであって、そのために弁護人に理由のない負担をさせることは相当でなく、そのような事情も右の結論を左右するものでない。

四以上のとおりであるから、本件検察官のした前記接見に関する指定処分は、違法であつて、その取消しを求める本件準抗告は理由があるから、刑訴法四三〇条、四三二条、四二六条二項により、これを取消すこととし、主文のとおり決定する。

(塩見秀則)

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